自分の脚で立つ。
「ai STANDALONE」というブランド名は、デザイナー並木愛の名前、そして2人組のバンドGRIM SPANKY(グリムスパンキー)の曲名「アイスタンドアローン」から生まれました。
「自分の脚で立つ」という曲の世界観と「自分の脚で立って生きる女性が、自分らしく輝ける服で輝いてほしい」という愛さんの服に込める願いがリンクしたことから名付けられました。
コンセプトは、「私が私らしく、輝くことのできる服」。
女性の社会進出が進み、今後ますます自分の脚で立って生きていく力強さが必要になると考える愛さんは、一般的な価値観やトレンドに左右されて、画一的な服を着るのではなく、自分らしくいられるスーツを常に意識してつくっています。
たくさんの人に同じ服を着てほしいと思っているわけではないので、完全受注生産。
「着たいと思ってくれた人が、その人に合う服を着て喜んでくれることが嬉しいですね」と話す愛さんは、世の女性像の型にはまらないありそうでなかったスーツを提案しています。

「何を着る?」
ai STANDALONE(アイスタンドアローン)のデザイナー並木愛さんが、スーツスタイルを中心に展開するようになったのは、着ていく服に対して感じた違和感がきっかけだったのだそう。小学校の卒業式のとき、着ていく服に悩んだ愛さんは「人と違ったものが着たい」と思っていたといいます。「女の子はスカートやワンピースを選ぶ子が多いですが、私はかっこいいパンツスタイルで出席したいと思った」という愛さんは、細身のパンツに長めのジャケットを合わせて卒業式に出席しました。
小学3、4年生の頃に「ご近所物語」という漫画で、主人公の高校生がデザイナーを目指すストーリーを読んで洋服づくりに興味を持った、愛さん。中学生になるとミシンを扱い始め、都内で唯一服飾科のある農業高校に進学、そして杉野服飾大学に進学しました。
そして、大学の入学式で再び「何を着よう?」と悩んだといいます。「やっぱり私はワンピースとかドレスではなく、パンツスーツでかっこよいスタイルで参加したかった」。有名セレクトショップのダークネイビーのパンツスーツを購入して参加したものの、このときの愛さんは理想的なスタイルではなく、もっとメンズシルエットのものが着たいと思ったといいます。
大学で勉強するうちに、デザイナーよりも技術を身につけられるパタンナーを目指すようになった、愛さんでしたが、大学卒業後は、趣味でソーイングをしている人たち向けの雑誌などをつくる出版社に就職。約7年程務めたのちに、2017年に独立し「ai STANDALONE」を立ち上げました。
「就職はファッション業界ではなかったですが、つくり手側にいたいという気持ちがあって出版社に就職しました。7年近く経って、改めて何がしたいのかと自分自身に問いかけてみたときに、『もう一度、服をつくりたい』という思いが出てきました」
愛さんは、これまで自身が感じてきた服への違和感や「かっこいい服がないから自分がつくる」という思いから服づくりの道へ進むと決意し、現在、完全受注生産で女性のための新しいスーツスタイルを提案しています。

自分の好きな服をつくりなよ。
デザイナーの並木愛さんは、大学卒業後に就職した出版社に務めながら、パタンナーの勉強をするためにとある講座に参加しました。そこで、自身のブランド立ち上げにつながる運命的な出会いを果たします。それが、「THE NORTH FACE(ザ・ノース・フェイス)」でチーフパタンナーを務めていた玉置浩一氏でした。「パタンナーとして転職を目指したものの、パタンナー職というのは実務経験を求められるものだったので、なかなか転職先を探せずにいました。そんなとき玉置さんに転職の相談をしたら『サポートするから、自分の好きな服をつくりなよ』と言ってくれたんです」と振り返る、愛さん。世界レベルのパタンナーとして道を極めた玉置さんと出会い、彼の一言に後押しされ、再び服づくりに情熱を注ごうと決意を固めた愛さんは、会社を辞め、自身のブランド立ち上げの準備をしていきました。
自分がブランドとして何をするのかを考えていたとき、結婚式に招待される機会がありました。
パンツスタイルの服で参列しようと思った愛さんは、「女性のフォーマル服はワンピースやスカートが多い」と気づきました。「私は昔からワンピースやスカートを着ることが苦手で、かっこいい服を着たいという思いが強かった。結婚式に呼ばれたからにはおしゃれをして参加したいと思っても、女性のフォーマルな服はワンピースが多くて、スーツは地味になりがちだったことに気づき、これだ、と思いましたね」。愛さんは、女性が楽しめるかっこいいパンツスタイルスーツをつくると決めました。
ai STANDALONEは、愛さん自身が感じてきた思いを服づくりに活かし、ありそうでなかったスーツが生まれました。その反響は大きく、女性アスリートや自分の個性を見出したい女性たちのファンが増えています。
「個」を意識させる服。
かっこいいパンツスーツが欲しいという想いから、理想的なスーツをつくるためブランドを立ち上げた、デザイナーの愛さん。
女の子だから、スカートを履く。女の子だから、ピンク色が好き。「女の子だから」という理由で、画一的な服装をすることや半ば押しつけのようにも思えるファッションの捉え方に、子どもの頃から違和感を持っていた愛さんは、大人になっても思う存分自分らしい格好をしたいという思いは変わっていませんでした。「性」を意識するのではなく、「個」を意識させるスーツづくりをしています。

ai STANDALONEが提案するスーツは、トラッドでポップなのが特徴的です。イギリスなどで紳士用のオーダーメイド服に使用される上質な生地を仕入れ、シルエットにこだわったスーツを展開しています。一般的にレディースラインの服は、メンズラインと比較して生地が薄いことが多く、さらに女性らしいを表現するためにウエストラインにくびれをつくったり、バストやヒップなどにダーツを入れる手法を採用したりと、女性らしいを強調させる仕掛けが随所にあります。
しかし、愛さんはメンズラインで使用されるしっかりとした生地、そしてクラシカルだけどどこか新しさを感じさせる柄の生地を採用。パンツはテーパードシルエットにすることで、女性がかっこよくかわいらしく着こなせるスーツをつくりあげています。
「洋服に性差があるのは、私は違和感を覚えます。もちろんスカートやワンピースを着ることを否定しているわけではなく、自分の個性を出せるような、いいと思う服を女性が楽しんでいられたらと思っています。『女性の服装はこうだろう』と性を意識した服がつくられていることに対する、アンチテーゼという意味も込めながらスーツをつくっているというのはありますね」と愛さんは話します。
どのようにしてニュートラルなものに仕上げていくのか。一人の人間としてかっこよくありたいと願う女性が着るスーツを追求する愛さん。今、女性アスリートやジェンダーの悩みを抱える人などから、自分の個性を見出す服として共感され、ファンが増えています。
女子っぽい格好が苦手という人や、ヒップの大きさなど体型に悩む女性、フェミニストの人なども一度ai STANDALONEの服を試してみると、きっと前向きなメッセージを受け取れるはずです。

